「データの見えざる手」

「データの見えざる手」

人間の行動も自然法則の支配下にある!

これまで人類は、科学により宇宙の起源から生命のDNA構造までを理解してきました。そして、その発見のきっかけは多くの場合、新たな計測データの取得にありました。

しかし、人間の感情を伴う行動が、同様にデータで測定できること、そして人間の行動が自然法則の支配下にあるという本書の主張に大変興味が持てました。

本書を読み進めるうちに納得する部分が多々あり、あたかも私たち個人個人がエネルギーの自然法則の原子、分子の様な存在として自然界の中を動き回っているような不思議な感覚にもなりました。

大量のデータを用いた研究は、神秘の解明の大きな一手になる

我々は、広大な宇宙、生命の神秘に思いを巡らす時、人智を超えた存在を意識してきました。
それをある人は神と、またある人はサムシング・グレート(偉大な何者か)と呼びました。
そして、宗教家、哲学者そして科学者は、その真理を究明しようとしてきた歴史があります。

天才的科学者は、自然現象に関してその神秘を明らかにするため観察・記録(データ)により万物を支配する「エネルギー保存則」という自然法則の見えざる手を発見しました。

著者は自然の一部である人間もまたエネルギーの自然法則の支配下に置かれていることを、センサを使った人間の身体運動を計測した大量のデータから証明しました。

つまり人間の身体運動が、どんな「意識」「思い」「感情」「事情」を持っていようとも運動を計測した分布は、物質中の原子や分子の熱エネルギーと必ず同一形状の「U分布※」に乗ることを明らかにしました。

大量のデータを用いた著者の研究は、神、サムシング・グレートの神秘の解明に大きな一手になると感じました。

※U分布は広く知られた「釣り鐘型」の正規分布とは全く異なり,指数関数に従い「右肩下がり」の分布

人間の幸せも測定できる

私たちの究極の目標であるハピネス(幸せ)も加速度センサで測れることを示しました。

そこで明らかになったことは、「幸せな人の身体はよく動く」という単純で共通の事実です。これは幸せが積極的な行動と強く結びついていることとも整合しています。

著者は、このことは熱力学・統計力学でいうと「活動温度が高くなる」「熱くなる」に対応し、動きの増加つまり「熱くなる」ことが幸せの身体表現となっているとしています。

このことから著者は、人間の幸せもエネルギーの自然法則に合致すると言いたいのだと思います。

さらに、この身体運動の活発度が人から人に伝染する。つまりハピネス(幸せ)も人から人に連鎖的に伝染する。
そしてハピネス(幸せ)は個人の中で閉じて生じていると捉えるより、むしろ集団において人と人との間の相互作用の中に起こる。
つまり集団にハピネス(幸せ)が起きれば、企業の業績、生産性が高まると結論づけています。

幸福で運のよい人とは、どのような人?

次に、運をデータを使って科学的に捉えようとしています。

著者は「運の良さ」を表す指標として「到達度」(人と人とが出会える機会をカウント)とし、センサを用いて定量化し測定しています。

結果として運が良い人は「到達度」が高いことが分かりました。つまり、運のよい人は、問題が発生しても人と人とのつながりによって、まわりの人の持っている情報や能力で助けられる確率が高いことを示しています。

また、センサを使い身体運動の測定値から運をつかむには会話の質も重要であることを明らかにしています。

これらの研究結果から、「幸福で運のいい人」とは、自分から積極的に行動を起こす人、そして良いコミュニケーションにより、多くの人とつながっている様な人のイメージなのでしょうか。

人間の経験や勘では決して立てられない人工知能の能力!

最後に、経済活動におけるデータの活用に関し、人工知能Hを用いて説明しています。

人工知能Hは、入力されたデータを分解し、これをさまざまな組み合わせで再度合成し膨大な数の要因群を自動的に生成しまう。

そして、人間の経験や勘では決して立てられない仮説(要因)を立てる能力があり、各分野における専門家以上の成果を上げています。

このことから、私たちは自分の経験から因果で筋道をたて考えがちだが、私たちの考える因果とは全く関係のないところに重要な要因があることをデータは示しています。

著者の「膨大なデータにどんな現象や法則性が含まれているかを創造しようがない人間には、仮設など作りようがない」という意見は腑に落ちるところがありました。

私は、政府・民間が発表するデータの解析結果(要因群)に違和感を感じたり、またその解析データを活用して立案した政策を実行してもうまく行かなかったことを多々経験しています。

最後に

著者の「人間」「幸福」「運」といった今まで宗教、哲学が守備範囲にしてきた項目を、ビックデータを活用して真理を追究しているところが非常に面白かった。

人間は、科学的なデータを用いて自然現象の神秘を解き明かそうとしてきました。しかし、その人間自身もまた自然の一部であり、自然の法則に従うことを本書は明らかにしています。

私は、人間には個々に意思があり各々が自由に行動している考えていました。その自由行動の差異は、大局的には微々たる誤差の範囲に過ぎない。そして、その行動は神あるいはサムシング・グレート(偉大な何者か)自然法則の支配下にあ

 

しかし、危惧されるのは、著者はビッグデータ活用の良い面を強調して書いていますが、ビッグデータの活用は緒に就いたばかりであり、悪意を持って使用される可能性も捨てきれないようにも感じました。

私たちがビッグデータを使って利益を追求することで、見えないところで、「データの見えざる手」により豊かで幸せな社会が生み出されることを願います。